コラム
河川の砂利底で産卵する「ニゴイ」
コラム
2025年8月12日
桜の花が散った後の5-6月に、砂利底の河川で産卵するニゴイという魚を紹介します。
ニゴイの全長は40-60cmとコイよりやや小さく、頭の先が尖ったスマートな体型をしています。ふだん諏訪湖のなかでみることはなかなかありません。

しかし、ニゴイは、産卵のために浅い川に遡上(そじょう)してくるため、そうした場所ではその姿を見ることができます。ニゴイの産卵は気温が上昇する晴天の日の午前中から午後にかけ、「淵尻(ふちじり)」と呼ばれる、大人の拳よりもやや小さめの石や礫(れき)が川底に多くある場所でよく見ることができます。

観察を続けていると、体の大きさや色、行動に違いがあることがわかってきます。これは、オスとメスの違いです。オスの体は暗い金色で、顔の周りやヒレの先が濃灰色をしています。体の大きなオスは、「淵尻」にナワバリをもち、ペアとなったメスをそのナワバリに誘導しようとします。口先に見えるプツプツとした白い点は、「追星(おいぼし)」と呼ばれるコイ科の魚に現れる産卵期の特徴です。一方のメスは、銀白色の体をしており、産卵場所を求めて広い範囲をゆったりと泳ぎます。体の大きなメスには、数尾(すうび)の小さなオスがついていることもあります。これらの小さなオスはナワバリをもった大きなオスの攻撃を受けて追い払われてしまいますが、岩かげや水流の強い場所で攻撃をかわしつつ、しつこく産卵の瞬間までメスにつきまといます。
やがてメスの産卵準備が整うと、オスが隣に寄り添い、体を震わせながら産卵と同時に精子を放出します。その瞬間はわずかですが、追い払われた小さなオスが素早く産卵に参加することもあります(後日、産卵の様子をとった動画を公開します)。
ニゴイの卵は、礫の中に埋められることなく川底にばらまかれます。卵の表面はベトベトとしていて石や礫に付着しやすいため、水の流れに流されることはありません。しかし、ニゴイの卵はほかの魚の卵に比べて直径約3mmと大きいので目立ちます。そのため、産卵したばかりの卵がコイなどの魚に食べられてしまうこともあります。
ニゴイの産卵から数日後、諏訪湖の沿岸や川の河口ではコイたちの産卵が始まります。ニゴイの産卵からは、かれらの個性豊かな産卵行動だけでなく、まわりの生物同士の命のつながりを感じることができます。湖畔ウォーキングをされている方は、そのついでに水面下のうごきを観察してみてはいかがでしょうか。
【参考文献】
Katano O. and Hakoyama H.(1997)Spawning Behavior of Hemibarbus barbus (Cyprinidae). Copeia 1997(3): 620-622.
執筆:柳生