コラム
人工衛星を使った諏訪湖の観察
コラム
2025年12月1日
諏訪湖の周りにはサイクリングロードやジョギングコースが整備されており、季節によっていろいろな姿を見ることができます。そんな諏訪湖ですが、近年では空中ドローンや人工衛星の技術発達にともない、上空から観察することが可能になっています。
例えば、欧州宇宙機関(ESA)が運営するSentinel-2という人工衛星は、地球を周りながら数日ごとに各地を撮影し、その結果をウェブ上で公開しています。実際に2024年に撮影された諏訪湖とその周辺の画像をつなげた動画を左下に示します。2月上旬に北東部分の湖岸が凍っている様子や諏訪湖周辺に雪が積もる様子が見えます。また、6月から7月にかけて水草(ヒシ)が湖岸の水面を覆っていき、7月後半から8月にはヒシ刈りで部分的にヒシが無くなり、10月後半にヒシが一気に枯れて無くなる様子も見えます。5月や6月の画像のように時々諏訪湖の上が白くなっていますが、これは雲や水面の波と推測されます(これらは影の有無や諏訪湖の水面以外にもかかっているかどうかで判別出来、5月の北西部分釜口水門周辺は波、6月の西側の山にもかかっているのが雲と推定されます)。また、諏訪湖が結氷した2018年の2月の画像を右下に示しますが、湖面が全面結氷している様子や一部凍っていない穴のような地点も見ることができます。


近年話題になっている水草についても、このような画像を活用することで湖全体の様子をすぐに把握できるようになると期待されています。しかし、動画の9月頃のように、アオコのような植物プランクトンで湖が緑色に染まると、水草と似た色を示すため色情報での検出が難しくなることから、日本のいくつかの湖沼を対象に、目に見えない近赤外領域の光の情報を含めた、植物と周辺の湖水、地面がもつ反射特性の違いを活用したNDVI(Normalized Difference Vegetation Index:正規化植生指数)やNDWI(Normalized Difference Water Index:正規化水指数)等の数値指標による水草の検出に向けた研究がされています※1-2。それらの研究では、水草の判定精度の改善が課題とされているため、当センターでも同時期にヒシが生育していた地点について調べたところ、年によってNDVIの値が変化するために一定の閾値(ヒシか水かを判断する基準の値)で正確に分類するのは難しいこと、一方で画像ごとに適切な閾値を設定することで密に繁茂している面積を正しく算出できる可能性が確認できました(詳細は研究成果「衛星画像を活用した水草繁茂状況把握手法の開発」(PDF)をご覧ください)。現在センターでは、より正確に分類する方法について研究を進めています。
このように良いことばかりを書いていますが、実際には雲がかかっていると湖面の様子が見えないため晴れた日を選ぶ必要があり、湖や季節によっては一ヶ月ほど観察できないこともあります。また、水面が白く写るほど波が強い時には光の反射が乱れるためノイズが多くなるなどの問題もあり、それらをふまえた上で利用することが大切です。
ここで紹介したデータはCopernicus browserから無料で検索、閲覧、ダウンロードすることが可能です。英語のページですが、ぜひご覧になってみてださい。また、Sentinel-2以外にも様々な特徴を持った人工衛星があり、土砂災害の検出※3やインフラの管理※4、農作物の管理※5など様々なサービスへの活用が期待されています。
【参考文献】
※1 安井 一人, 松村 勇育, 浅見 正人, 蔡 吉, 酒井 陽一郎, 石川 可奈子(2023): ドローンと衛星観測による伊庭内湖における水草繁茂面積の簡易推定. 陸水学雑誌. 84(1): 65–74. https://doi.org/10.3739/rikusui.84.65
※2 尾山洋一, 松下文経, 福島武彦(2017): 衛星画像から観測した国内6湖沼におけるヒシ属Trapa L.の長期分布変化. 保全生態学研究. 22(1): 171–185. https://doi.org/10.18960/hozen.22.1_171
※3 渡邉学, 米澤千夏, 園田潤, 島田政信(2017): L-band SAR(PALSAR-2)を用いた, “広域データ”からの土砂災害域検出. 日本リモートセンシング学会誌. 37(1): 21–25. https://doi.org/10.11440/rssj.37.21
※4 Kiran Joseph, Ashok K. Sharma, Rudi van Staden, P.L.P. Wasantha, Jason Cotton and Sharna Small(2023): Application of Software and Hardware-Based Technologies in Leaks and Burst Detection in Water Pipe Networks: A Literature Review. Water. 15(11): 2046. https://doi.org/10.3390/w15112046
※5 石倉究, 笛木伸彦, 原圭祐, 丹羽勝久, 瀬下隆(2024): 衛星画像と地形情報を活用した圃場内の土壌物理性不良エリアの評価 I. 保水性不良. 日本土壌肥料学雑誌. 95(1): 11–20. https://doi.org/10.20710/dojo.95.1_11
執筆:筒井裕文